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こんにちはMasaユナイテッドです。
21-22プレミアリーグ第14節。ホームでアーセナルと対戦したユナイテッド。試合は開始からハイプレスで積極的に前へ出るアーセナルがペースを握ります。開始早々にもコーナーから危ないシュートを打たれますが、13分にはコーナーの流れからスミス=ロウに決められ先制を許します。デ・ヘアがフレッジに踵を踏まれて蹲っている間の失点でした。その後、アーセナルがリトリートしたことで徐々にボールを持てるようになったユナイテッドは、44分、左サイドの崩しからブルーノが決めて同点に。後半に入った52分にはショートカウンターからロナウドが決めて逆転に成功します。しかし、54分にはウーデゴールに決められすぐさま振り出しに戻されます。そして70分にはフレッジがボックス内で倒されPKの判定に。これをロナウドがプロ通算801点目となるゴールを決めて勝ち越しに成功。試合はそのまま3-2でユナイテッドが伝統の一戦に勝利しています。
*試合のハイライトはこちら
今回はこの試合の戦術ポイントを4つ上げ、キャリック采配からラングニック采配へどのように移行していくのかを考察したいと思います。
以下項目です。
👿ラインナップ

①ビルドアップ
お互いに4-2-3-1で臨んだこの試合。開始からユナイテッドのビルドアップに対して、積極的なハイプレスで前へ出るアーセナルという構図が何度も見られました。まずはこのユナイテッドのビルドアップに関して見ていきます。
ユナイテッドは配置は変えずに、バックラインを広げる形でビルドアップ。アーセナルは4-4-2の形でプレス。前線のオーバメヤンとウーデゴールはユナイテッドのダブルボランチを背中で消しながら2CBにプレスを掛けます。そのこともあり、ダブルボランチを経由して中央から前進する事よりも、サイドへボールを繋ぐことを徹底します(主に左)。これは、スールシャール時代からやっている形で、とりわけ斬新でもないのですがアーセナル戦は2つ、キャリックが仕込んだ形がありました。
1つは、サイドにブルーノもしくはロナウドを出し、枚数を増やしてギャップを作ること。サイドバックのテレスとウィンガーのサンチョの間にブルーノやロナウドが入る場合と、サンチョが下りて、その背後をロナウドが狙う場合とありますが、サイドで数的優位を作る作戦です。これ自体は悪くないのですが、問題は大外のレーンに3人が並んでしまう場面が多かった事。これではギャップを作りフリーで受けても、パスコースはできていないのであまり効果がありません。フレッジへの落としぐらいしかパスの選択肢がなく、効果的なビルドアップとはなりませんでした。

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もう一つは主に後半から見られる形でしたが、無理に繋ごうとせずに、ロナウド目がけてロングボールを蹴るやり方。これはキャリックになってからよく見られる形で、ロナウドを空中戦で競らせてポストさせ、前線の起点とする考え方です。ロナウドが競ったこぼれ球を拾って攻撃に繋げることを狙いましたが、ビルドアップに難があるのはわかっているので、そもそも繋ぐことに拘らず前進させるという意味では効果があります。そして、アーセナル戦はフレッジを始め、こぼれ球に対する反応が良かったこともあり、シンプルながらまずまずの効果がありました。
スールシャール時代にほとんど整備されなかったビルドアップは、キャリックになって工夫は見えますが、そこまで大きなテコ入れはなされていません。ユナイテッドのビルドアップの問題点は2つあり、配置を変えることがほとんどなく、ギャップやパスコースが生まれにくいことと、パスを受ける選手が軒並み後ろ向きであることです。プレッシャーを受けながら後ろ向きで受けて前へ向けないので、戻すかワンタッチで横へ渡すことが多くなります。ラングニックは、ビルドアップの過程でバックパスや、スクエアパスを禁止しています。そのままユナイテッドでも当てはめるかどうかはわかりませんが、ビルドアップに関しても変化が期待できます。
②ハイプレス
続いてハイプレス。キャリック暫定監督になってから最も変化が顕著なのがこのハイプレスでしょう。アーセナルの自陣からのビルドアップに対してユナイテッドは基本的に人にハメ込む形を取ります。プレスのスイッチを入れるのはチェルシー戦同様にブルーノ。セットの時にはエルネニーについているブルーノですが、ガブリエルがボールを持つとプレスに出ていきます。浮くエルネニ―にはラッシュフォードが左サイドバックのタバレスへのパスコースを切りながらマークに行きます。トーマスに対してはフレッジが付いている左とは違い、右はラッシュフォードが中央へ絞るのが特徴。その後ろのマクトミネイはトップ下のウーデゴールを担当します。
そしてもう1つの特徴は、浮いたタバレスに対してダロトが出ていくことです。相手のサイドバックに対してサイドバックが出ていく形で対応します。ワン=ビサカもそういう場面はありますが、アーセナル戦に関してはやり方を設定していたのは間違いないでしょう。ただ、この時アーセナルは、ダロトが空けたスペースにオーバメヤンが流れギャップを作ろうとします。これに対してはリンデロフがしっかりカバーに入りアーセナルの自由にさせませんでした。

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前回のチェルシー戦では、この右サイドでギャップを作られ苦戦しましたが、アーセナル戦はより細部までプレスの掛け方を準備していた印象を受けます。しかしアーセナルのビルドアップが機能しなかった要因はユナイテッドのハイプレスだけではなく、アーセナルのダブルボランチにもあったかもしれません。今シーズン重用されているロコンガではなく、エルネニーを起用したのは意外でしたが、プレッシャー下で前を向く能力はロコンガの方が高いでしょう。中央を効果的に使えなかったアーセナルにも組立に問題があったと思います。
このようにハイプレスは現在のユナイテッドにとって最も重要な戦術要素となっています。キャリック監督のアイデアであるのかどうかは置いといて、やはりこの部分を整備したことはラングニックへスムーズに繋がる要素です。もちろんプレスの掛け方はOKでも、実際ボールを奪い取るというところまでは改善できていません。ラングニックにはそこの整備も期待したいですが、もしかしたらそもそも全然違うプレッシング方法をとるかもしれません。キャリックのやり方は浮いた選手を作らない事に注力していますが、もっと人数で囲い込むようなやり方になることも考えられます。
③トランジッション
3つ目はトランジッション。攻から守への切り替えであるネガティブ・トランジッションです。ユナイテッドの1点目は相手のクリアボールを拾ったところからでした。2点目はアーセナルボールになったところをダロトが奪い返したところからです。スールシャール時代はボールを失うと、奪い返しに行かずにズルズル後退する癖のあったユナイテッドですが、キャリックになったからボールを失ったら必ずファーストディフェンダーがプレスに行く姿勢を見せます。撤退するときは、ボールホルダーまで距離がありすぎる時に限られます。
アーセナル戦は、ボールを回収するシーンも多かった印象です。中盤のマクトミネイ(リカバリー11回)、フレッジも(13回)そうですが、ダロトやマグワイアも積極的に前へ出る守備を慣行。マグワイアはボールを奪ってそのままシュートまでいくシーンも見られました。ちなみに、こぼれ球やボール回収が多かった理由の一つに、アーセナルのリトリート守備に問題があったということもあります。13分に先制したアーセナルは、それまでのハイプレスを止め、リトリートディフェンスに切り替えましたが、非常に重心が低く、エルネニーやトーマスのポジションがディフェンスラインに吸収されるほどでした。このためバイタル付近にスペースができがちで、フレッジやマクトミネイがボール回収しやすく、2次、3次攻撃に繋がり易かった印象です。
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キャリック監督になってから評価できるのは、ボールを失った際もチームとしてアクションが統一されているように見えるところです。ネガトラに関しては、メンタルの影響も大きいので、一概にキャリック監督の指導によるものだとは断定できませんが、細部にわたって守備意識が上がっているのは間違いないでしょう。本来ポジトラの速さは持っているユナイテッドですが、ネガトラの速さと精度が上がる事はラングニックスタイルへと直結します。
④選手起用とタスク
最後は選手起用に関して。この試合は脳震盪の影響で大事を取っているショーと、手の怪我で戦列を離れたワン=ビサカに代わってテレスとダロトの両サイドバックを起用したこと以外は、スールシャール前監督と同じシステムと選手起用でした。ビジャレアル戦とチェルシー戦ではスタメンやシステムを変えていたキャリックでしたが、アーセナル戦はスールシャール時代に戻しています。
ただ、スールシャールの時とは決定的に違うのは、各々「タスク」が課せられている事です。ロナウドは前線のプレスに参加し、味方への指示出しも増えました。そして、前線で空中戦を戦い、ポストプレーで起点となる事も役割として与えられています。サンチョとラッシュフォードのポジションを入替えたのは(通常は右サンチョ、左ラッシュフォード)、ラッシュフォードには高い位置を取りがちなタバレスのサイドをカウンターで狙う役割があり(2点目は見事にハマりました!)、サンチョには大外に張ってアーセナルディフェンスを広げる事を役割として与えています。そして両ウィングとも守備時は、相手サイドバックに付いて自陣まで戻ることも徹底されています。ちなみにサンチョは冨安とマッチアップし、ドリブルで仕掛けましたが突破できず。それを悟ったサンチョはパスでのチャンスメイクに切り替えるクレバーさを見せました。パスで2得点の起点として絡んでいます。
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フレッジとマクトミネイの関係を変えたのもキャリックです。スールシャール時代にはマクトミネイがボックス・トゥ・ボックスで、フレッジがアンカーでしたが、これを逆にしています。低い位置で守備のタスクをこなすマクトミネイと、攻守に渡って積極的に前へ出るフレッジという関係性は、開幕前に限界論が言われた2人の最適解に見えます。あのドタバタフレッジとはもうお別れです(笑)。
ダロトの起用は想定外だったかもしれませんが、アーセナル戦のダロトは攻守に渡って素晴らしいパフォーマンスでした。特に守備に関しても高い位置を取るというのはワン=ビサカにはない特徴でしょう。ハイプレスの位置取りをキャリックが指示したとしたら(恐らくそうですが)ダロトにはピッタリの役割だったと思います。守備位置が高いことで持ち前の攻撃性能を発揮できましたね。
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このようにシステムや選手は同じでも役割を与えることで、チームとして機能できるという事をキャリックは示しました。そしてラングニックに代わればより「タスク」は重要性を増すことが予想されます。その中で誰と誰の組み合わせがユニットとして最も機能するのか。また誰を起用する事でラングニックのやりたいサッカーができるのか。そして選手の能力を最も引き出せるのはどのような「タスク」を与えた時なのかなど、プロフェッサーが見極めていくことになります。
👿まとめ
アーセナル戦は決して順風満帆だったわけではありません。試合の入りもミスが多く、先制のシーンにしても、厳しいようですがデ・ヘアの失態だった感は否めず(その後普通にプレーし続けているので)、悪い時のユナイテッドならそのままズルズル崩壊しそうな流れでした。しかし、その後アーセナルが引いてくれた事で徐々にペースを取り戻せましたし、アーセナルのビルドアップにも問題があった事で追加点を与えず、同点に追いつきました。
攻撃に関しても、アーセナルの撤退守備の問題とロナウドのスーパーな活躍で流れを引き寄せた感は否めませんし、77分のオーバメヤンの決定機を外したアーセナルの詰めの甘さと、キャリックのラスト試合ということでメンタリティでユナイテッドが勝っていたことも勝因として挙げられます。しかし、その根底にはキャリックの戦術的な整備があるのも事実。この試合を最後にキャリックはチームを去りますが、この3試合はかなり内容の濃い3試合でした。ビジャレアル、チェルシー、アーセナルというヨーロッパの強豪相手に2勝1分けの負けなしで、新監督であるラングニックにバトンを繋いだことは評価に値します。
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そしてその戦い方は今回の記事で見てきたように、ラングニックへと繋がりやすい要素も多く含んでいます。攻守両面やサブメンバーも含めたスカッドの構成には課題も多くありますが、ラングニックがどこから手を付け、どのようにチームが変わっていくのか、今から楽しみで仕方ありません。

21-22PL14 ユナイテッドvsアーセナル スタッツ 出典:プレミアリーグ公式

21-22PL14 試合結果 出典:ユナイテッド公式
この試合の結果ユナイテッドは7位に浮上。4位ハマーズとは3ポイント差です。
次節はオールド・トラッフォードでのクリスタル・パレス戦 12月5日(日)23:00キックオフ。いよいよラングニック・ユナイテッド始動!カモン!ユナイテッド!!
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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