【21-22PL第18節】ブライトン戦に見るラングニック戦術論 個か組織かそれとも情熱か!?【コラム】

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こんにちはMasaユナイテッドです。

21-22プレミアリーグ第18節(延期分) ホームでブライトン&ホーヴ・アルビオン(シーガルズ)と対戦したユナイテッド。試合は前半、引き気味のユナイテッドに対してブライトンがボールを握る展開に。39分にはモデルの決定的なヘディングシュートをデ・ヘアが好セーブ。チームを救います。後半に入りユナイテッドはギアを上げ反撃に出ます。51分ハイプレスからマクトミネイがボール奪いロナウドへ。これをロナウドが見事にゴールへ突き刺しユナイテッドか先制します。その1分後にはダンクがエランガを倒し、VAR判定の結果レッドカードに。1人少なくなったブライトンをユナイテッドが攻め立てます。66分と71分にはロナウドに再び得点のチャンスがありましたが、サンチェスの好セーブもあり決められません。1-0のままアディショナルタイムに入りますが、97分に途中出場のポグバが素早いリスタートでブルーノへ。ブルーノが独走してゴール前まで持ち込みそのままシュート。これが決まって追加点!ユナイテッドが2-0で勝利し、勝ち点3を獲得しました。

*試合のハイライトはこちら

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今回は、この試合で見られたラングニックの戦術についてのコラムです。期待されたような戦術の落とし込みがうまくできていないのは何故なのか。また、ラングニックの指導において足りないものは何なのかなどについて書きました

以下項目です。

👿ラインナップ

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21-22PL18 ユナイテッドvsブライトン ラインナップ

①ブライトン戦の戦術

最終的にクリーンシート、2得点で勝利したブライトン戦ですが、不甲斐ない前半を経て後半ロナウドの復活弾で先制。アディショナルタイムにはポグバのナイス判断からブルーノがゴールを決めて勝利しました。一見するとラングニック色が薄く、結局個の力でもぎ取った感のある試合で、戦術的な要素も少ないという印象を持った方も多いのではないでしょうか?特に前半は、積極性もボールに対する執着も薄く、ゲーゲンプレスの生みの親が指導しているとはとても思えない内容でした。

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では、ラングニック監督はこの試合を選手任せにし、何の準備も修正もしなかったのかというとそうではありません。まず、試合の入りに関しては、ポゼッションが得意なブライトンが相手とあって、ガンガンハイプレスを掛けて無駄に体力を消耗する事を控えたと思います。基本的にミドルプレスとリトリートで対応していましたが、恐らくこれは準備したものでしょう。最初の20分は様子見で、ブライトンの出方を伺っていましたが、これはラングニックがほぼ毎試合やっている方法。多くの戦術家監督が行うやり方でもあり、最初の15~20分はフォーメーションの噛み合わせや、相手の戦い方を見極めます。ラングニックが良くやるのはポジションを左右入替えて、いわゆる偽のフォーメーションで最初の15分を戦うかたちです。ブルーノとフレッジだったり、ブルーノとポグバだったり、サンチョとラッシュフォードだったりの位置を変えるといった具合です。

ブライトン戦は最初4-3-3で臨みますが、ブライトンの2CBとアンカーのビスマに対してロナウドとブルーノしか対応しておらず、全く噛みあわない形でした。そのためフレッジが高い位置まで単独で出ていく場面などもあり、そもそもハイプレスができるフォーメーションではありませんでした。そこでラングニック監督は20分過ぎに4-2-3-1にシステムを変更し、ビスマにブルーノをマンマークさせ、ボールサイドのウィングにCBの1人にプレスさせるように修正します。そこからは多少ハイプレスを掛けるシーンもありましたが、ユナイテッドの選手たちは最近の試合内容により自信を失っており、積極的で強度のある戦いはできなかったというのが前半でしょう。

後半に入りギアを上げたユナイテッドは一気にハイプレスに出ます。51分にはマクトミネイが高い位置でボールを奪ってロナウドへ。これをロナウドが相手に囲まれながらもシュートを打ちゴールに突き刺しました。さらに54分にはエランガが猛然とダンクにプレスを掛けファールを誘い、ダンクのレッドカードを誘発します。このどちらのシーンも、4-2-3-1に変更しハイプレスできる形にしていたことが功を奏しています。ロナウドのゴールなどは、個の能力で刹那的に奪ったもののようですが、その背景にはラングニックの修正と、ゲーゲンプレスという核となる戦術があったということができます。

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さらに選手交代も適格でした。73分のポグバの投入は、同点に追いつこうとするブライトンに深い位置で対応し、ゲームをコントロールするのに大いに貢献しました。ポグバは20分で31回のボールタッチを記録しましたが、フレッジは72分で55回でした。影響力の大きさが伺えますね。そして80分のテレスをウィングに置いた采配も見事。これはラングニック曰くブライトンの右サイドで脅威となるランプティに対応するためとのことですが、ショーのサポート役としてテレスを投入し守備を固めると同時に、ランプティを自陣に押し込める狙いがありました。

②戦術の影が薄いわけ

このように、良く観察すると多くの戦術的要素があったブライトン戦ですが、一方で試合を重ねるごとに戦術色が薄くなっている印象を受けるのも事実です。これにはいくつかの要因がありますが、まず、ラングニックの戦術の骨幹をなすゲーゲンプレスやストーミングは、スペースではなく人とボールを標的に時間を奪うことを目的としている事が挙げられます。

いわゆるポジショナルプレーでは、誰かが動いて開けたスペースを、他の選手が使うことでスペースを埋め、相手にギャップを作る事で破壊しようとします。これは一目見て組織的で戦術的に見えやすいです。しかしボールを奪ったら縦に早く攻め切るスタイルであるゲーゲンプレスは、崩しの場面で複数人が関与することが少なく、パッと見では個の力で打開しようとしているように見えがちです。こういったスタイルによる印象の違いが根本にありつつ、今のユナイテッドはラングニックの戦術をモノにできていないということも大きな理由です。

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就任から2ヶ月ちょっとが経ちましたが、シーズン途中での戦い方の変化は容易ではなく、ラングニックの戦術に身体も頭もまだついていけていないというのが本当のところでしょう。つまりは、まだ落とし込みが完了していない段階だということですが、そのためにラングニック監督は試合を重ねるごとに自身のスタイルに柔軟性を持たせ、選手たちが対応できるように「妥協」しています。就任当初の4-2-2-2を辞めた事にしても、ブライトン戦の前半ハイプレスを控えた事にしても、陣形がコンパクトでない事にしても、多くの事を今の段階では強制していません。選手のできる範囲で戦術を段階的に落とし込んでいる最中だということです。

そしてこれは、裏を返せば選手の適応能力が不足しているということでもあります。これまでクラブの伝統的にも戦術的な戦い方をしてこなかったユナイテッドは、ファン・ハール、モウリーニョ時代も戦術的アプローチに拒否反応を示してきた歴史があります。一部報道されている、選手たちのラングニックに対する反発は事実でなくても、中には「勘弁してほしい…」と思っている選手がいる可能性はあると思います。

③人々が求めた戦術と安定

しかし、元を辿れば戦術的な戦い方を求めたのは選手であり、フロントやサポーターのはずです。スールシャール監督の戦術よりも個の能力に依存した戦い方は、劇的な勝利もありつつも、下位に取りこぼすなど不安定な成績の要因となっていました。

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ライバルチームであるシティ、リバプール、チェルシーと比べて、どうしても劣っていたのが監督です。彼らのような戦術に長けた監督に率いられることはユナイテッドの夢でもあり、もはや現代フットボールで戦術なくしてタイトル獲得は不可能です。

今シーズンの低パフォーマンスを受けてスールシャールに「ノー」を突きつけ、新たに就任したのが戦術家のラングニックでした。人々がラングニックに求めたのは戦術的アプローチと安定した成績です。就任以降これまで14試合7勝5分2敗、19得点10失点という戦績は私たちが思い描いたものでしょうか?2敗しかしていないことは安定したとも言えますが、戦術面は薄くなり、組織の整備も遅く、最終的には個での打開が勝利のカギとなっている現状は少し違うのではないでしょうか?

個人的にはラングニックはよくやっていると思いますし、①の項でも書いたように戦術的要素も多くあります。決してスールシャールと同じではありませんし、何より落とし込んでいる最中でこれからへの期待は持ったままです。ただ、何かが足りません。

そしてそれは恐らく「パッション」です。

④戦う上で一番大事なもの

ブライトン戦の前半、たとえアグレッシブにいかない事を決めていたとしても、選手たちは不安を抱えて試合に入ったのは明らかです。思うように勝ちきれない試合が続き、マスコミ、サポーター、OBからも苦言を呈され膨大なプレッシャーに晒され、自信をなくしていました。本来であれば、選手のメンタルケアを行いモチベーションを上げて試合に臨むべき状況でした。

ラングニック監督にパッションが不足しているとは思いませんが、やはりペップやクロップのように情熱を全面に出すタイプではなく、話すにしても理路整然と説明するタイプです。何か問題があったときなどは、個別に会話をしていることも多く、決してコミニケーションが不足しているわけではないですが、モチベータータイプでないことはわかりますね。

ラングニック監督は、就任にあたってスポーツ心理士のサシャ・レンセ氏を入閣させ、選手の心理面への配慮も行っているはずですが、今のところまだ成果が感じられません。賛否はあると思いますが、選手が快適にサッカーを楽しめるようにするという面ではスールシャールはうまかったです。いわゆるモチベータータイプに分類されていましたが、解任末期はともかく、選手たちから不満がほとんど出てこなかったことからも、マネジメント含め心理面でのケアはできていたと思います。

ブライトン戦、ロナウドの得点を皮切りに動きが見違えるほど良くなりました。ロナウド自身もそうですし、チームとしても一体感が出て、試合に集中するようになりました。これは明らかに心理面の問題であり、改めてサッカーはメンタルスポーツであるということを実感させた試合だったと思います。

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情熱を持って選手に接し、不安を自信に変え、試合への適切な動機付けを施しモチベーションを上げることがラングニックにはもう少し必要ではないでしょうか。そしてそれは、もしかしたら戦術よりも大事なことかもしれません。

👿まとめ

ロナウドの復活先制弾、ポグバ、ブルーノという2人のスター選手が絡んでのアディショナル弾、複数得点&クリーンシート、4位浮上とポジティブ要素のある試合となったブライトン戦。一方で、監督自ら「ジキルとハイド」に例える前後半のパフォーマンスの差や、チームとして4つの決定機を外していることなど、課題の解決には至っていないのも事実です。デ・ヘアのビッグセーブがなければ、あるいは勝てていなかったかもしれません…。

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とはいえ、結果が出たことはひとまず朗報。ユナイテッドとしては、ブライトン戦の勝利をキッカケにしてパフォーマンスを上げていきたいところです。そしてそれには、戦術面のブラッシュアップだけでなく、選手を動かすガソリンとなる「情熱」をもっと注ぎ込み必要があるのかもしれません。

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21-22PL18 ユナイテッドvsブライトン スタッツ 出典:プレミアリーグ公式

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21-22PL18 試合結果 出典:ユナイテッド公式

この試合の結果、ユナイテッドは遂に4位浮上!3位チェルシーとは勝ち点4差(チェルシーは1試合少ない)となっています。

次節はエルランド・ロードでのリーズ・ユナイテッド戦。2月20(日)23:00キックオフ。ダン・ジェームズと再会だ!カモン!ユナイテッド!!

最後まで読んで頂きありがとうございました!

コメント

  1. kaiaskun より:

    いつもながらMasaさんの分析には感心致します。
    ユナイテッドは確かに昔から戦術要素は少なかったですが、ハートで負けることをファギーの頃から一番嫌ってましたよね。
    ただ今のプレミアだとハートだけでは勝てないのは自明の理。クロップも最初は上手くいってないですし、少なくとも交代の意図が伝わってきますしこの路線を信じたいですね。
    ただ暫定監督はやはり良くないと思います。毎日の様に監督候補の名前が出るのは気の毒です。
    ラングニックに選ぶ権限があれば良いのですが、今までの様に上が勝手に決めてラングニックと揉めないか心配です。
    個人的にはアヤックスがゴタゴタしてるなら、ファン・デル・サールごと来て欲しいですが、オランダとドイツではかえって混乱するでしょうか?

  2. masachesterutd より:

    Re.kaiaskunさん
    コメントありがとうございます!
    仰る通り、昔からユナイテッドは戦術<ハートでしたね。そういった意味で、今は岐路に立っていると言えます。ハートは大切にしつつも、現代型の戦術も身に着ける必要があるでしょう。ファン・デル・サールはどうなんでしょうね(笑)?将来的にはユナイテッドでの仕事もあり得るかもしれませんが、今はアヤックスに集中しているでしょう。ゴタゴタしてますが...。

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