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こんにちはMasaユナイテッドです。
21-22チャンピオンズリーグラウンド16第1戦 アウェイ、ワンダ・メトロポリターノでアトレティコ・マドリーと対戦したユナイテッド。試合は前半7分にルディのクロスにジョアン・フェリックスが頭で合わせてアトレティコが先制します。前半ユナイテッドはパフォーマンスが上がらず、ボールは待てど、なかなか攻撃の糸口を見つけられずわずかにシュート2本に終わります。後半66分にマティッチ、テレス、ワン=ビサカを投入したユナイテッドは徐々にペースを戻します。そして75分にはエランガをピッチに送り込むと80分、そのエランガがブルーノのパスに抜け出しシュート。これがオブラクの横をすり抜けゴール!同点とします。82分にはリンガードを投入し追加点を狙いますが、最後までアトレティコの堅守を崩せず。試合は1-1のドローで終了しました。
*試合のハイライトはこちら
今回はこの試合のマッチレビュー。ラングニックとシメオネ、2人の戦術家同士の対戦となったこの試合を戦術コラムという形でレポートします。
以下項目です。
👿ラインナップ

①アトレティコの狙い
昨シーズンのラ・リーガ王者であるアトレティコ。組織的で強度の高い守備と、グリーズマン、スアレスなどワールドクラスのアタッカーを有し、闘将シメオネが率いるスペイン屈指の強豪クラブですが、今シーズンはイマイチ本調子ではないという前評判でした。システムの変更や、固定しないメンバー構成により成績を安定させることができず、自慢の堅守も鳴りを潜めていると...。ユナイテッドに対しては朗報であり、ヨーロッパの大会で苦戦する傾向のあるスペイン勢が相手ながら、勝機も充分にあるという見方もありました。
CLラウンド16第1戦で、シメオネ監督は昨シーズンからのメインフォーメーションである3-5-2を使用。チームの主軸であるキャプテンのコケ(怪我)やカラスコ(サスペンション)を欠き、スアレス、グリーズマン(怪我明け)をベンチスタートに試合に臨みました。開始から高いインテンシティで、素早くボールホルダーを囲い込み、ユナイテッドに自由を与えないアトレティコ。今シーズンの不調が嘘のような組織的で穴のないディフェンスを見せていました。
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現在のトップレベルのフットボールは、ボールの奪い合いが重要で、よりボールを支配したチームが主導権を握り、結果的に敵陣でのプレーが増えチャンスを作る事ができます。そしてそれがゴールへと結びつき、勝利に近づくという構図です。つまり敵陣でいかに長い時間ボールを保持するかが大きなポイントとなっており、多くのトップチームがそこを目指して配置やメンバー構成、戦術を設定します。しかしながら、今回相対した2人の名将は、このアプローチに沿っていません。ラングニックはトランジッションで相手を囲んでボールを奪い、相手の守備組織が整うまでに攻撃を完結することを信条としており、シメオネも強固なブロック守備からのカウンターに喜びを見出すタイプの監督です。
どちらの監督も「ボールを保持する」という事へのこだわりは強くなく、ポゼッション率は勝利への指標とはなりません。この2つのチームが激突した場合に何が起こるのか...。その結果は少々意外なものでした。前半のポゼッション率はホームのアトレティコが33%、ユナイテッドが67%とユナイテッドが圧倒します。しかし、どうでしょう?実際にゲームの実権を握っていたのは、7分に先制点を挙げたアトレティコの方ではないでしょうか?
これこそがシメオネがこの試合の狙いとしたことです。「ボールを持たずにゲームを支配する」。「アゲインスト・ザ・ボール」で、ボールを奪って素早く攻めたいユナイテッドに、その要因となるボールを与えることで機能不全に陥らせる...。前半のユナイテッドはチームの特徴が出ないポジショナルプレーをアトレティコに強いられたということです。
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②ユナイテッドの機能不全
3-5-2のアトレティコはユナイテッドの自陣からのビルドアップに対して、コレアかフェリックスのどちらかがユナイテッドのCBにプレス。もう1人はアンカーであるフレッジをケアする事で片側へボールを誘導します。そこへアトレティコの3センターがスライドして対応。ミドルゾーンのボールサイドでオーバーロードを作ります。素早いプレッシングでそこから先へ進めないユナイテッドは、ボールをCBに戻します。逆サイドはスペースがあるのですが、正確にそこへ蹴られるほどの余裕がないために、振り子のように最終ラインを循環して逆サイドへ持っていきます。しかし、そこへはアトレティコのWB(ヴルサリコorルディ)が猛然と迎撃に出てきます。この時のアトレティコは4-4-2に可変しており、この試合を通して何度も見られた形で、特にルディが高い位置を取り、常に中央4人でブロックを作れる体制を取っていたことはアトレティコの組織力の高さを物語っていましたね。

ユナイテッドは、どちらのサイドからもミドルゾーンより先に侵攻できず。折角ダブル8番で挑んだブルーノ、ポグバにもライン間でボールを渡すことができませんでした。フレッジのアンカーというのも機能不全に陥った要因で、中央で受けて前を向けないフレッジはビルドアップの起点には程遠く、ポグバとブルーノがサイドに出るしかない状況になる主な要因でした。さらにウィングの2人(サンチョ、ラッシュフォード)は中央にいてもボールが一向に来ないので幅を取るしかなく、まるでシティのようなポジション配置に強制的にさせられます。これでは、自慢のアタッカー陣のクオリティを活かせるはずもなく、ラングニックの攻撃の要となるサイドバックも敵陣へ入っていけません。
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もちろん、このやり方はアトレティコの十八番である一方で、ラ・リーガではそれを掻い潜られピンチになることもあるのだと思います。しかし、ユナイテッドは組織力が決定的に不足しており、アトレティコの陣形を崩すようなポジションを取ったり、アタッカーが動きでマーカーを引っ張りスペースを作ったりといったプレーが皆無でした。動きがほとんどなくただ自陣でボールを持たされた結果のポゼッション率67%であり、フィールド・チルト約40%です。
フィールド・チルトとは、ポゼッション率とファイナルサードでのボールタッチ数の相関関係を表したもので、下記図の青いドットは今シーズンのプレミアでのユナイテッドのフィールド・チルト(前半)です。通常ポゼッションが高ければ、ファイナルサードでのタッチ数も増えますが、アトレティコ戦では通常のドットの範囲から大きく逸脱している事がわかります。それは前半のシュート数がわずかに2本だったことからも明白です。このグラフから読み取れることは、ユナイテッドはボールを握っていましたが、チャンスは作れなかったということです。もっと言えば、それはシメオネによって意図的に作られた現象だということです。

21-22CL アトレティコ戦 フィールド・チルト 出典:The Athletic
③スコアとは別の勝敗
ラングニックにして「信じられない...」と言わしめた前半のパフォーマンスから、後半徐々に改善を見せたユナイテッドですが、66分のマティッチ、テレス、ワン=ビサカの投入がキッカケになったと言えます。マティッチの守備強度と、散らしのパスはチームのポゼッションを安定させましたし、テレスとワン=ビサカも高い位置でプレスを掛け、攻撃に関与できるようになりました。さらに、75分にピッチに立ったエランガがブルーノのパスに抜け出し値千金の同点弾と、後半の選手交代をまたしてもラングニックは当てたということです。
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一方のシメオネは前半終了間際の、ヴルサリコのヘッドがリンデロフに当たった決定機を決まられず追加点のチャンスを逃すと、後半はチャンスらしいチャンスを作れませんでした。上記のように、選手交代を機にペースを握ったユナイテッドにやや押される展開となりますが、後半もユナイテッドのシュートをわずかに5本に抑えるなど最後まで堅守を維持しています。
前半は、戦術面で上回ったシメオネですが、興味深いのはラングニックのリンデロフの右サイドバック起用です。この試合の先発が発表された時に、多くのユナイテッドサポーターは3バックではないのか?ということが頭をよぎりました。リンデロフは先のリーズ戦で得点に絡む仕事をしており、その攻撃力を評価したということも考えられますが、試合後のラングニックのコメントでは4バックから3バック(5バック)への可変を考えていたが、先制されたために断念したとのことでした。
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普通に考えれば、サイドバックの上がりはラングニックの生命線であり、戦術の要です。そこにCBが本職のリンデロフを配したのは意外でしたし、この大一番でこれまでやったことのない、システム的な冒険をしたことはかなり驚きです。このシステム変更と開始早々の失点でゲームプランが狂ったことが、前半の選手達のパフォーマンスにどの程度影響を与えたのかは計り知ることができませんが、シメオネが3-5-2から4-4-2、あるいは5-3-2へと可変する事で攻守のバランスを巧みに操ったことに対して、ラングニックのシステムの失敗は象徴的に感じました。
この試合は結果的に1-1のドローであり、痛み分けです。しかし、スコアとは別の次元で繰り広げられた指揮官同士の力比べでは、シメオネに軍配が上がったという印象です。自分たちの得意とする戦いに持ち込んだアトレティコと、キープレーヤーをことごとく消されたユナイテッド...。ラングニック・ユナイテッドが、まだしっかりと取り組めていないポゼッションを強いられたことはこの試合の大きな戦術的ポイントでした。
④ホームで勝つために
とはいえ、ドローという結果は悲観するものではありません。今シーズンからアウェイゴールは撤廃されたので、次のホームでの試合で勝てば良いだけのことです。そして、ラングニックが語っているように、第1戦とは違う展開になるでしょう。今回の記事では戦術をテーマに書いていますが、前半の低パフォーマンスは、戦術面だけでなくメンタル面も大きな要因としてなっていると思います。やはり、ボールを持つことに自信がないのは感じましたし、自分たちのやりたいことができずにイライラし、基本的なボールに対する集中力や、「走る」という面でもアトレティコに劣りました。
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もちろん悪コンディションの中、タフな試合を強いられたリーズ戦の疲労が残っていた可能性もありますが、第2戦は「ハードワーク」と「メンタリティ」が大きなポイントとなるでしょう。ユナイテッドは第2戦のアトレティコ戦の前に、シティ戦、スパーズ戦があり、アトレティコ戦の後にはリバプール戦があるというハードスケジュールですが、日程に文句を言っても仕方ありません。それよりもこの時期を今シーズンの山場と捉えて、全力で臨むことに集中する必要があります。
第2戦は3週間後です。アトレティコは調子を上げている可能性が高いですし、第1戦で出られなかったコケなども出場可能になっていると思われます。今回は戦術面でしてやられたラングニックがどんな策を用意するかも見ものですが、選手たちがどれだけファイトできるかも大きなカギとなります。
👿まとめ
ワンダ・メトロポリターノの雰囲気は素晴らしく、やはりチャンピオンズ・リーグは特別な大会だということを改めて思い出させてくれました。フェリックスの得点をアシストしたルディのクロスは素晴らしかったですし、19歳302日で同点ゴール(CL決勝トーナメントでゴールを挙げたユナイテッド史上最年少記録)を決めたエランガも誇りに思います。ユナイテッドからすれば、チャンスらしいチャンスも作れず、フラストレーションの溜まる試合でしたが、最悪の結果だけは回避できたことは朗報でしょう。
選手個人のパフォーマンスに関して深く言及できるほど、チームとして戦えていなかったですが、各々のプレー判断、ポジションの立ち位置などはまだまだ改善する必要があるでしょう。ブルーノやポグバが消された時にどう戦うのか。ロナウドを機能させるには1トップで良いのか。サンチョとラッシュフォードはボールが足元に無い時にどう動くのかなど、局面局面での対応はまだまだ課題だらけだいう印象を与えました。
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また、マティッチやエランガ、テレスやワン=ビサカなどを入れるだけで流れが変わるということは、逆を言えばまだまだ組織として戦えておらず、個の特徴に依存した繊細なチームバランスだということの表れでもあります。シメオネとの戦術家対決では敗れた印象のあるラングニックですが、勝つための戦術プランを用意すると同時に、組織の整備が早急に必要だということも改めて示した試合でもありました。
*スタッツはこちら

21-22CL-R16-1 試合結果 出典:ユナイテッド公式
次の試合はプレミアリーグ第27節 オールド・トラッフォードでのワトフォード戦。2月27日(日)0:00キックオフ。カモン!ユナイテッド!!
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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