【22-23ユナイテッド新監督候補】テン・ハーグ/アヤックスの戦術分析 Part.1 ~ビルドアップ&崩し~

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こんにちはMasaユナイテッドです。

今シーズンも残すところ9試合。無冠がほぼ決定したユナイテッドは新シーズンへ向けての準備をそろそろ始めなければなりません。まずは新監督が誰になるのかということがポイントとなりますが、現在名前が挙がっているのがマウリシオ・ポチェッティーノ(PSG)、エリック・テン・ハーグ(アヤックス)、ルイス・エンリケ(スペイン代表)、フレン・ロペテギ(セビージャ)、トーマス・トゥヘル(チェルシー)など。

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どの監督も素晴らしい戦歴の持ち主ですが、最も有力視されているのがアヤックスのエリック・テン・ハーグ監督です。

かなり以前から噂にはなっているので、すでにテン・ハーグについてご存知の方もいると思いますが、今回はマンチェスター・ユナイテッド大学的にテン・ハーグ/アヤックスの戦術分析をしたいと思います。

一体どんな戦術を操っているのか?

ユナイテッドには合うのか?

ユナイテッドを強くしてくれるのか?

などの疑問を解消したいと思います!

なお、かなり長い記事になってしまったので2部構成にします!

まずはPart1をどうぞ!!

以下項目です。

①アヤックスとテン・ハーグ

2017年12月、ユトレヒトをヨーロッパの舞台へ引き上げた功績が認められ、アヤックスの新指揮官に就任したエリック・テン・ハーグ(テン・ハフ)。18-19シーズンのチャンピオンズ・リーグでレアル・マドリー、ユベントスを撃破し準決勝に進出。トッテナムとの激戦の末敗れこそしましたが、その攻撃的なフットボールは世界に衝撃を与えました。18-19シーズンは国内2冠。19-20シーズンは新型コロナの影響により残り8試合を残してリーグは中断され、リーグ優勝扱いにはなっていませんが勝ち点ではトップ。続く20-21シーズンも国内2冠。そして21-22シーズン、チャンピオンズ・リーグではラウンド16でベンフィカに敗れ涙を飲みますが、3月25日時点で国内2冠の可能性を残しています。

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センセーショナルな活躍を披露した18-19シーズンのメンバーは、その多くが国外のビッグクラブへ移籍(ファン・デ・ベークもそのうちの1人)。21-22シーズンも健在な主力選手はアンドレ・オナナ、ドゥサン・タディッチ、ダレイ・ブリント、ヌサイル・マズラウィ、ニコラス・タグリアフィコなどごく数人しかいません。毎シーズン、多くの選手が入れ替わるにも関わらず、これほどまでに安定した好成績を収められるのは2つの理由があります。1つは「アヤックス」という特殊なチームであること。もう1つは指揮官である「テン・ハーグ」です。

オランダ屈指の名門として知られるアヤックス・アムステルダム。1970年代に黄金期を迎えたアヤックスは、当時確立したプレースタイルを伝統的に貫いているヨーロッパでもかなりカラーのはっきりしたチームです。「トータルフットボール」と称される激しいプレッシングと、華麗なパスワークと変幻自在のポジションチェンジから成るプレースタイルは当時大きな注目を集めました。そのアヤックスの守備的な要素をアリーゴ・サッキのミランがゾーンプレスへと昇華させ、パスワークの部分を整理拡大したのがクライフのバルセロナです。アヤックスは時代は変われど、基本的なプレースタイルは不変です。育成年代からこのプレースタイルを学び、補強戦略においてもアヤックス・スタイルというブレない軸があるために、どれだけ主力が引き抜かれようと大きく崩れる事がないというわけです。

さらに、2017年から指揮官となったテン・ハーグの功績も非常に大きいと思います。現役時代ディフェンダーとしてプレーし32歳で引退。その後はトゥウェンテ、PSVのアシスタントマネージャーを経て、ゴー・アヘッド・イーグルズというチームの監督としてキャリアをスタートすると、チームを17年ぶりとなる一部昇格へ導きます。しかし、監督として大きな転換期となったのは、その後のバイエルンⅡの監督就任でしょう。ここで当時トップチームの監督だったのがペップ・グアルディオラです。ペップの元でポジショナルフットボールを学んだことがアヤックスのサッカーにも影響しているのは間違いありません。ドイツのレベルの高いサッカーをオランダに持ち帰ったテン・ハーグは、ユトレヒトで当時のオランダにはなかったトレーニングメソッドと戦術、フォーメーションで旋風を巻き起こしました。

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現代フットボールの2大戦術であるゲーゲンプレスとポジショナルプレーの源流となるアヤックスの「トータルフットボール」。その明確なスタイルと、それをピッチ上で見事なまでに表現して見せるテン・ハーグの手腕がアヤックスの強さの秘密です。では、次項からテン・ハーグの戦術を詳しく見ていきましょう。

②多彩なビルドアップ

2017年の冬からアヤックスを指揮するテン・ハーグ監督。毎シーズン、戦術を微妙に変化させていますが、それはおおむね選手特性に合わせた変化であり、基本戦術は変わっていません。そのテン・ハーグの戦術で最も重要なのがビルドアップでしょう。今回の分析では主に21-22シーズンのアヤックスを取り扱います。まずは今シーズンのアヤックスのラインナップから見ておきましょう。

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21-22アヤックス基本ラインナップ

基本フォーメーションは4-3-3または4-2-3-1。ダブルボランチシステムの場合はライアン・グラーフェンベルフがボランチになり、スティーヴン・ベルフハウスが10番になりますが、かなり流動的なため、1試合の中で4-3-3も4-2-3-1も使っているという形。ビルドアップにおいて重要な役割を担うのは左利きのCBリサンドロ・マルティネスです。175cmとCBとしては小柄ですが、その球出しの上手さは特筆に値します。長短のパスをぴたりと当てる精度の高さは、いかにもアヤックスらしいCBと言えるでしょう。そして、もう1人のキーマンは、14-15から4シーズン、ユナイテッドでもプレーしたダレイ・ブリント。CBもできるブリントですが今シーズンは左サイドバックとしてCLとエールディビジで全試合に出場しています。主に左サイドからのビルドアップを試みるアヤックスの戦術上の鍵を握っています。

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アヤックスのビルドアップフェーズの基本原則は、ポジショナルプレーから成っています。そういう意味では特別な方法でビルドアップしているわけではありません。定石通り、相手の前線の枚数に対して常に数的優位になるように後方の選手を配置します。1トップの相手に対しては2CBとアンカーのエドソン・アルバレスで三角形を作り、2トップに対してはブリントが左CBに降りて3CBプラス1アンカーの4人で囲い込む形、もしくはアンカーのアルバレスがCB間に降りて、インサイドハーフであるライアン・グラーフェンベルフがアンカーに落ちる形も見られます。

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アヤックスのビルドアップ(数的優位)

アヤックスのビルドアップの原則は必ず後方から繋ぐことです。ロングボールを蹴る場面はほとんどなく、マルティネスからアントニーへの対角のパス、もしくは前線の選手の裏への抜け出しを狙ったパス以外の「セカンドボールがどっちにこぼれるか」的なボールは最後の選択肢になります。CBの2人は楔を打ち込む技術も高く、インサイドハーフ(もしくはトップのハラーが落ちてくる)に楔→ダイレクトで戻してレイオフ→サイドへ展開というのも頻繁に見られる形です。左サイドからの前進が多いですが、ブリント(LB)、グラーフェンベルフ(LIH)、タディッチ(LWG)のトライアングルを旋回させながら、相手のサイドバックとウィングを混乱に陥れる動きも秀逸です。

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非常にビルドアップの形は多才ですが、全てに共通するのは「幅」と「深さ」をあらゆる手段で駆使して、ファイナルサードでの崩しに繋げるという意識です。グラウンダーの短くて速いパスを多用するのも、必ずボールの周囲に人数を掛けてユニットとして前進するのも、両サイドバックが内側へ入り、両ウィングが幅を取るのも、CBがスペースがあればオーバーラップするのも全ては「幅」と「深さ」を意識しているためです。リーグ戦の平均ポゼッション率67.8%とボール保持に置いて圧倒的な優位性を見せるアヤックス。ビルドアップはテン・ハーグ/アヤックスの特徴であり、強みの1つです。

国内リーグでは無敵を誇るアヤックスですが、当然ながらチャンピオンズリーグでは思うように事が運ばない場面もあります。一方でそういった困難な場面になると、より複雑な原則を発揮し始めるのもアヤックスの特徴です。例えば今シーズンのCLドルトムント戦。マルコ・ローゼ率いるドルトムントの特徴は、強度の高い前線からのプレスです。このプレス回避のためにアヤックスはゴールキーパーのレンコ・パスフェールを含めてビルドアップします。これはどのチームでも見られますが、アヤックスのCBはハイプレスを掛けられた時に、後ではなく前へ動く事でスペースを作ります。キーパーへボールを下げた時に、右サイドバックのマズラウィが下がり、逆にCBのユリエン・ティンバーが前へ出ます。こうする事でマズラウィへのパスコースができ、ドルトムントのプレスを剥がしていました。

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アヤックスのビルドアップ(逆ベクトル)

アヤックスはこのようにCBがアンカーのポジションを取る事で自陣に安全なスペースを作り出すシーンが非常に多いと感じました。これはマルティネス、ティンバー、ブリントの選手特性(彼らは複数ポジションでプレーできる)を上手くチーム戦術に落とし込んでいる好例だと思いますが、必ず逆のベクトルを取る選手を作る事で、リスクも回避している点にテン・ハーグの秀逸さが見て取れます。

③ファイナルサードの崩し

次に見るのは崩しの局面です。今シーズンのリーグ戦で80ゴールと2位PSVを12点上回る圧倒的な攻撃力を見せているアヤックス(3/25現在)。チームのトップスコアラーはリーグ戦20ゴール、公式戦全体では35試合で30ゴールを挙げているセバスチャン・ハラー(アレ)です。ユトレヒト時代にテン・ハーグの指導を受け、その後ウェスト・ハムでもプレーしたコートジボワール代表ストライカーがチームの得点源ですが、崩しの局面で重要な役割を担うのは両ウィングのタディッチとアントニーでしょう。

10番を背負い、キャプテンでもあるドゥサン・タディッチは高いテクニックを有しながら戦術理解、献身性にも優れたアヤックスになくてはならない存在です。前線のすべてのポジションでプレー可能で、タディッチを偽9番とするシステムもしばしば使われます。そして、20-21シーズンにサンパウロから加入したレフティの右ウィング、ブラジル人のアントニーもアヤックスのチャンスメイクに大きく貢献しています。今シーズン、タディッチは37試合13ゴール18アシスト、アントニー33試合12ゴール10アシスト記録しており、数字上でも2人の貢献度は見て取れますね。

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この2人はアヤックスの陣形に置いて幅を担当します。ビルドアップの局面でタッチライン際に立ち、相手のサイドバックをピン止め。ディフェンスラインの横幅を広げる役割を担います。左のタディッチはどちらかというと周囲とのコンビネーションで崩しを行い、突破力のあるアントニーは単独での仕掛けから特徴的なインスイングのクロスでチャンスメイクします。この2人が崩しの局面で重要な役割を担いますが、アヤックスの特徴はポジションチェンジと第3の動き(囮のランニング)にあります。

右サイドでは、アントニーの能力を最大限に活かすために右サイドバックのマズラウィが非常に大きな役割を果たしています。アントニーがタッチライン際でボールを持つと、すかさずマズラウィがインナーラップ。ニアゾーン侵入を行います。それに相手のマーカーは引っ張られるわけですが、そこでアントニーはカットインしクロスを上げるのが右サイドの定石となっています。

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アヤックスの崩し(右サイド)

左サイドは、上記したようにタディッチ、グラーフェンベルフ、ブリントのコンビネーションがカギとなりますが、タディッチが大外にいる時は右サイド同様に、サイドバックであるブリントがニアゾーンランを行います。その際グラーフェンベルフは、後に下がり、ブリントの開けたポジションをケアします。ネクスト・ポグバと称される19歳のグラーフェンベルフは非常にスケールの大きなプレーヤーですが、タディッチがインナーレーンに入った時は大外に出たり、ブリント同様にニアゾーンに侵入したりとポジションチェンジを上手く使えるMFです。またサイドにボールが出ると、相手SBの裏を狙う選手が必ずいるのも特徴で、これも狙いは相手のCBをサイドへ吊り出し中央にギャップを作ることですが、この動きも左サイドの方が顕著に見られます。

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アヤックスの崩し(左サイド)

ファイナルサードでは必ずと言って良いほどサイドを経由し、幅を広げたところから、囮のランニングやポジションチェンジ、オーバーロードで中央にギャップを作るのがテン・ハーグが仕込んでいる形です。そしてペップシティ同様にニアゾーンを取ったところからクロスを上げ、ハラーが仕留めるというのがアヤックスの崩し。このフェーズでも重要になるのは「幅」と「深さ」ですね。

Part.1はここまで!Part.2ではテン・ハーグ/アヤックスの守備戦術とユナイテッドへの適合性を考察します!

最後まで読んで頂きありがとうございました!

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