【22-23ELプレーオフ1stレグ】バルセロナvsマンチェスター・ユナイテッド 戦術コラム

Embed from Getty Images

こんにちはMasaユナイテッドです。

22-23ヨーロッパリーグ プレーオフ1stレグ。アウェイ、カンプ・ノウでバルセロナと対戦したユナイテッド。試合はバルサが得意のボール保持からレバンドフスキがシュートを放つなど、ホームらしい入りを見せます。しかし、ユナイテッドもカウタープレスから素早くバルサのライン裏を狙う攻撃が機能し、サンチョやヴェフホーストが惜しいシュートを放ちます。0-0で前半を折り返し、50分、バルサはコーナーキックからマルコス・アロンソのヘディングで先制に成功します。しかし、その2分後ユナイテッドもラッシュフォードが難しい角度からニアを抜く素晴らしいゴールですぐさま同点に戻します。さらに59分、コーナーからラッシュフォードが鋭い仕掛けでハフィーニャを躱してゴール前へクロス。これがクンデのオウンゴールに繋がり逆転に成功します。勢いに乗るユナイテッドでしたが、次の得点はバルサ。76分にハフィーニャのクロスがそのままゴールに吸い込まれ試合は再び振り出しに。最後の10分間、怒涛の攻撃に出たバルサにゴールに迫られますがなんとか凌いでタイムアップ。見応えのある試合は2-2のドローで終了。勝敗は来週のホームでの2ndレグに持ち越されることになりました

*試合のハイライトはこちら

今回はこの試合の振り返りを戦術コラムで。過去のバルサとの対戦なども参考に、ユナイテッドの進化とバルサ戦の戦術的アプローチを紐解きます!

以下項目です。

👿ラインナップ

222-23ELPO-1 バルセロナvsユナイテッド ラインナップ

①ユナイテッドvsバルサの歴史

2008年のチャンピオンズリーグ準決勝、ユナイテッドはフランク・ライカールト率いるバルセロナと対戦し、ホームでの2ndレグに1-0で勝利。バルサを破って決勝へ進出しました。モスクワでチェルシーとの決勝戦を戦いPK戦の末勝利、見事ビッグイヤーを獲得したことを覚えている方も多いでしょう。歴代最強と謳われた当時のユナイテッドですが、翌シーズンのCL決勝ではペップ・グアルディオラ率いるバルサにローマ オリンピコで完敗を喫します。10-11シーズンの決勝でも再び対戦しましたが、この時のウェンブリーでも3-1で敗れています。ペップ・グアルディオラの登場がサッカー界に与えた戦術面の影響はとても大きく、バルセロナの哲学とペップのポジショナルフットボールの融合は、当時のイングランドフットボールから見ても異次元の存在でした。ファーガソン監督ですら歯が立たず、時代の流れを痛感させたと言われるバルサのサッカーは、それ以降戦術的なトレンドを牽引し続けることになります。メッシやシャビ、イニエスタがチームを去り、監督人事も安定せず、経営的な問題で混とんとしながらも「ボールを保持する」という点ではぶれない芯を持ち続けているのがバルセロナというチームです。

Embed from Getty Images

今シーズンのCLではバイエルンとインテルと同居したグループステージで、わずかに1勝しかできず脱落することになりましたが、シャビ監督のもと立て直し、10月27日にバイエルンに負けて以降1敗も喫していません。国内では21節終了時点で18勝2分け1敗で、2位レアルと8ポイント差の首位を独走。その1敗はレアルに喫したものであり総失点はわずかに7という驚異的な成績です。そんな好調バルサに対して挑むことになったユナイテッドですが、過密日程による疲労の蓄積や怪我人も多いながらもワールドカップ以降15試合でわずかに1敗とこちらも好調を維持しています。格下相手には圧倒的にボールを支配しながらも、強豪相手には鋭いトランジッションからのショートカウンターを武器に戦うなど戦術のバリエーションも有するユナイテッドが、バルサというポジショナルサッカーの申し子に対してどのような戦い方をするのかも注目ポイントの1つとなりました。

②カギとなったユナイテッドのフォーメーション

意外だったのはユナイテッドのフォーメーション。通常使用する4-2-3-1ではなく4-1-4-1で臨みました。しかも前線の並びはトップにラッシュフォード、2列目右からブルーノ、ヴェフホースト、フレッジ、サンチョという並び。リーズ戦の後半で見せたストライカーのヴェフホーストを2列目で使うというオプションをこの大一番で使ってきました。このフォーメーションがこの試合の最も重要な戦術要素となります。テン・ハーグ監督の意図は非常に明確で前線の5枚でバルサのバックラインにプレスを掛けると同時に、高い位置でのカウンタープレスを狙っていました。ラッシュフォードはクンデを、ブルーノがアロンソ、サンチョがアラウホ、ヴェフホーストがケシエ、フレッジがデ・ヨングにマンマーク気味にプレスを掛けます。前線でボールロストしても、2列目の「4」で素早くカウンタープレスを仕掛けバルサの高いバックライン裏を突きます。カウンタープレスで重要な働きをするのがヴェフホーストとフレッジ。この2人を2列目で使うという意図はここにあります。ボランチの位置でのフィルターやビルドアップでのボール保持には難のあるフレッジは、トランジッションの場面では確実に仕事をこなしてくれます。ヴェフホーストも献身性や前線でのプレス、ポストプレーを得意としており、このポジションでもチームに貢献できます。27分にはショーのボール奪取からヴェフホーストの決定機を作り、34分にはサンチョのインターセプトからラッシュフォードのシュートへ繋げています。52分の先制点もヴァランのインターセプトから生まれており、2点目もフレッジのボール奪取からでした。トランジッションで素早くバルサのバックライン裏を突くという攻撃は見事にハマったと言えます。

Embed from Getty Images

しかし、ある意味このフォーメーションはギャンブルだったところもあります。それが、試合を通して見られたジョルディ・アルバがフリーになるという現象です。ビルドアップで左肩上がりとなるバルサに対してユナイテッドは先述した通りブルーノが左CBのアロンソにプレスを掛けるという形を取ります。本来であればブルーノがジョルディ・アルバに付く役割になるはずですが、高い位置からプレスすることが肝になっていることもあり、ブルーノは下がる事をしませんでした。左ウィングであるガビはインナーレーンに入り込み、空けた大外をアルバが高い位置を取りますが、ワン=ビサカは基本的にガビを見ておりアルバへの対応は後手になりました。特に前半は再三に渡りアルバとガビの左サイドから攻撃しており、ガビ6回、アルバ5回のSCAを記録しています。ここの対応がなされなかったというのも不思議でしたが、ここにテン・ハーグ監督の強気な姿勢が表れているとも言えます。決して引かず、高い重心で戦う。確かにリスクを伴うギャンブルでしたが、ここでブルーノにアルバ番をさせていたらすべてが台無しになっていたことも確かです。

Embed from Getty Images

③バルサを苦しめた守備とビルドアップのミス

この強気のユナイテッドのフォーメーションと戦い方は、バルサにとって厄介なものとなりました。ユナイテッドの高い位置からのプレスにより中盤のデ・ヨングとケシエは押し込まれ、通常のようなポジショニングができず、後方5人と前線5人で陣形が分断されることになりました。バルサのフォーメーション表記は4-2-3-1となっていますが、そもそもは4-3-3だったはずです。デ・ヨングがアンカーでケシエとペドリのIHが基本形。ユナイテッドの配置とプレスによりダブルボランチ化したところがあると思います。空洞化した中盤をガビとペドリが2シャドー的に絞る動きで埋めようとしていましたがそれぞれワン=ビサカとカゼミーロがマンマークし自由にさせませんでした。バルサの先制点はセットプレーから生まれています。ラスト10分、怒涛の攻撃でユナイテッドゴールに迫ったバルサですが、ポスト直撃のクリステンセンのシュートも、デ・ヘアがビッグセーブで凌いだファティのシュートも始まったのはセットプレーでした。流れの中からはなかなか決定的なチャンスを作らせなかった守備は評価できます。

しかしビルドアップのミスは多く、2失点目のカゼミーロのパスミスを始め、珍しくヴァランも何度か繋ぎの場面でミスを犯しています。ワン=ビサカも2回ほどターンの判断ミスで、バルサにボールを奪われており、自陣でのボール保持にはまだ問題が見られました。このレベルでは致命的なものもいくつかあり、正直1失点だけで済んだのはラッキーだったところもあります。ポゼッションでの進化も確実にしてきましたが、プレスが掛かった状態でのビルドアップに関してはより「安定感」を手に入れる必要があります。これができるようになれば、バルサやシティのようなボール保持に長けたチーム相手でもボールを支配できるようになるでしょう。

Embed from Getty Images

④テン・ハーグ監督の凄さ

この試合のゴール期待値xGはバルサ1.05、ユナイテッド2.18でした。お互いに18本のシュートを放ち、枠内シュートはバルサが8本、ユナイテッドが5本。ビッグチャンスはバルサが3回、ユナイテッドが1回でした。お互いにあと2点ぐらい取れていたという場面がありました。特にユナイテッドはヴェフホーストやサンチョなど「それは決めないと...」というシュートがあったのは確かです。テン・ハーグ監督も試合後に決定力不足に関して言及していますが、充分に勝てる可能性のあった試合だったというのが終わってみての感想です。正直試合前はユナイテッドがここまでバルサ相手に、しかもカンプ・ノウでやれるとは思っていませんでした。2得点に関与したラッシュフォードというある意味「チート」を持っていたとはいえ、バルサ相手に臆することなく挑んだ姿勢はチーム全員に見ることができました。その根底にあるのは、これまでやってきたことに対する自信であることは言うまでもありません。

しかし、それをピッチ上で具現化するのは簡単なことではありません。それは、あの最強を誇ったファーガソン時代のユナイテッドの対バルサ戦を見てもわかるでしょう。2011年のウェンブリーでの決勝でファーガソン監督が選んだのは「守備的な戦い方はしない」というものでした。当時を振り返ってウェイン・ルーニーはその監督の決断に「マジかよ...無理だって...」と思っていたと告白しています。守備的に戦えば勝てた可能性はありましたが、それを選んだ時点でユナイテッドではないというのがファーガソン監督の考えでした。そして、この考え方はテン・ハーグ監督も受け継いでいるということです。今回のバルサ戦、明らかにチームの姿勢は「攻撃的」でした。確かに守備の時間が多かったのは事実ですが、採用したフォーメーションとカウンタープレス戦術は自分たちの強みを120%発揮するためのものでした。鍵となったのは、選手たちがそれを信じて実行したことです。ここに、ファーガソン時代との差があります。ファーガソン監督は偉大なモチベ―ターでしたが、テン・ハーグ監督のような戦術的思考は持ち合わせていませんでした。テン・ハーグ監督がユナイテッドにとって「正しい」監督である理由に、ファーガソン同様のモチベ―ター的要素とペップのような戦術眼を持っていることがあります。

Embed from Getty Images

言葉でどれだけ「積極的に戦う」と言ってもバルサ相手にそれを実行するのは本当に難しい。リスクはかなりあったと思いますが、それを実行できた選手達と「正しい監督」テン・ハーグなら2ndレグ、ホームでバルサを破る事ができると信じています。

👿まとめ

好調な2チームによるハイレベルで見応えのある好試合となったバルサとの1stレグ。ユナイテッドはもう1、2点は取れたと思いますし、2失点目はミスとクロスが直接ゴールインするというアンラッキーなものでもあり、少し勿体無いドローという結果でもありました。いつもと違うフォーメーションと戦い方を明確にした前線の選手配置は相手の長所を消し、自分たちの長所を強調する素晴らしいアプローチだったと思います。これまでのユナイテッドであれば、こういった戦術を用意していても、強豪相手だと気持ち的に着いていけず、ズルズルとラインが下がり文字通り守備的な戦いになることが多かったと思います。しかし、今シーズンのリバプール戦や2回目の対戦時のシティ戦、アーセナル戦などでも攻撃的な姿勢を貫いてきました。就任初年度でここまでチームを改善させたテン・ハーグ監督の手腕は評価に値しますが、選手たちのメンタリティも素晴らしいものがありますね。

Embed from Getty Images

好調ラッシュフォードのゴールはあの角度からニアを抜くというファンタスティックなものでしたし、2点目に繋がった仕掛けからのクロスもキレが半端なかったです。前回リーズ戦の記事で、ラッシュフォードは戦術を超えた存在になっていると書きましたが、バルサ戦でもそれをまざまざと見せてくれたと思います。勝敗は2ndレグに持ち越しとなりましたが、好調ラッシュフォードの存在に加えて、マルティネスとザビッツァーが累積から復帰し、怪我で離脱しているアントニー、マルシャル 、マクトミネイの内1、2人は戻ってこられるかもしれません。一方のバルサは舵取り役のブスケツは2ndレグも恐らく戻ってこられず、ガビは累積警告で出られません。戦術的オプションという点でもユナイテッドが優位であり、しかも舞台は夢の劇場オールド・トラッフォード。勝って決勝トーナメント進出を決めましょう!

*前回の記事はこちら

*スタッツはこちら

22-23ELPO-1 試合結果

次の試合はプレミアリーグ第24節 オールド・トラッフォードでのレスター・シティ戦。2月19日(日)23:00キックオフ。カモン!ユナイテッド!!

最後まで読んで頂きありがとうございました!

コメント

タイトルとURLをコピーしました