【22-23PL第15節】アストン・ヴィラ戦をネットワーク論で振り返る!【マンチェスター・ユナイテッド】

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こんにちはMasaユナイテッドです。

22-23プレミアリーグ第15節。アウェイ、ヴィラ・パークでアストン・ヴィラと対戦したユナイテッド。試合は開始7分でレオン・ベイリーのゴールでホームのヴィラが先制します。11分にもフリーキックを直接リュカ・ディーニュに決められ早々に2失点する苦しい立ち上がりに。その後はユナイテッドがボールを徐々に支配し反撃に出ますが、クロスを放り込むだけの単調な攻めでゴールに近付くことはできません。34分にはガルナチョ、ロナウドとシュートチャンスがきますがエミリアーノ・マルティネスがセーブ。しかし、前半アディショナルタイムにショーが放った遠目からのシュートがラムジーにディフレクトしてゴールに吸い込まれ、前半のうちに1点返すことに成功します。後半一気に同点としたかったユナイテッドですが、逆に49分にショートカウンターからジェイコブ・ラムジーに決められ3点目を献上。65分にはエランガ、マルシャル 、マラシアを投入したユナイテッドですがゴールは遠く、3-1で敗れ今シーズン4敗目を喫しました。

*試合のハイライトはこちら

今回はこの試合を「ネットワーク論(ネットワーク科学)」を通して振り返り、ヴィラ戦の敗因、真の問題点に迫りたいと思います

以下項目です。

👿ラインナップ

22-23PL-15 ヴィラvsユナイテッド ラインナップ

①ヴィラ戦の敗因は?

今シーズンのリーグ戦、4敗目を喫したユナイテッド。公式戦9試合負けなしと好調を続けてきたチームの突然の躓きは少なからずショッキングであり、試合後には多くのところで多くの敗因分析がなされています。その中で散見されるのが、個々のパフォーマンスに関する言及です。どの試合でも少なからず個のパフォーマンス評価は行われますし、自身も選手評価の記事を作ることもあります。しかし、選手評価と敗因はごっちゃにしてしまいがちなところがあり、その結果真の原因を捉えにくくなることがあります。サッカーは11人が1つのチームとして行うスポーツである以上、「誰々のせいで負けた」というのは根本的にはありません。もちろん、致命的なミスで失点し敗れることはあります。が、その場合でもそのミスに至った経緯を見る必要があります。そもそもその前のパスが悪かったとか、本来カバーすべき選手が間に合わなかったとか、マッチアップした選手の方が一枚上手だったなど、ミスに繋がる要因も見る必要があるでしょう。

アストン・ヴィラ戦では開始7分でレオン・ベイリーの得点によりホームのアストン・ヴィラが先制します。このシーンでまず目に付くのはワトキンスに対応したリンデロフでしょう。ワトキンスは一度左サイド際へ出ていきボールをもらった後ぐるっと迂回しながら中に入っていきます。ワトキンスをマークするリンデロフはワトキンスに付いて行き、なんとかボールを奪おうとします。しかし止められずラムジーに通され、ラムジーからダイアゴナルに走り込んだベイリーへラストパスを通され失点しました。多くの人は、迎撃に出ながらワトキンスを潰せなかったリンデロフの対応が悪いと感じたでしょう。しかし、このシーンでリンデロフの周りの選手の動きを見てみると少し違ったことが見えてきます。

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ダロトはオーバーラップしたディーニュをマークし、ワトキンスと入れ替わってナローに絞ったブエンディアにカゼミーロが付きます。ショーはワイドに張るラムジーを見ていましたが、スライドして中央へ。マルティネスはベイリーから目を離すことはできませんし、エリクセンはプレスに出ていたので中盤のスペースを埋め切れていませんでした。さらにラムジーが中央に絞ってきた為、マルティネスはベイリーかラムジーかの選択を迫られています。つまりこの状況では引っ張り出されたリンデロフのカバーをする選手はおらず、完全にリンデロフは孤立しているということです。特に、カゼミーロとエリクセンは守備意識が薄過ぎ(動きが不明瞭)、本来ならカゼミーロがリンデロフのカバーに回る必要がありましたし、エリクセンはラムジーを捕まえマルティネスがベイリーに集中できるようにすべきでした。このように1失点目の場面で起こっているのは中盤を含めたディフェンス陣の「ネットワーク切断」です。

②ネットワーク論と失点シーンの関係

今回はこの選手同士の「ネットワーク」に注目してヴィラ戦を振り返ろうと考えています。ネットワーク論(ネットワーク科学)とは、個々の特性ではなく、「つながり」そのものから個々の特性や行動を理解する試みで、20世紀末に立ちあがった比較的新しい学問です。今日ではさまざまな分野で応用され注目されています。今回の記事で言うネットワークとはオン・ザ・ボールの関係(パス交換)、オフ・ザ・ボールの関係(ポジショニング)に加えてパーソナルな関係(同国、同言語)も含みます。選手同士の結びつきは、多くの場合パス交換の回数などで測られます。パスネットワーク図などは最近分析サイトなどで頻繁に見かけるようになりましたが、選手同士の結びつきを表すのにこれだけでは十分と言えません。なぜなら、それはボール保持の時のデータに過ぎない為です。多くの時間をボールに触れずにプレーするサッカーにおいて、それだけで判断するのはナンセンスです。守備時のチャレンジ&カバーや、ポジションチェンジ、サポートする動きなどのボール非保持の状態でこそ、選手同士のネットワークに注目すべきでしょう。

パスネットワーク図(ハマーズ戦) 出典:MAN UNITED ANARYSIS

ヴィラ戦の先制点はネットワークが切断されたと書きましたが、エメリ監督はこれを狙っていたと考えられます。まず前提として、ユナイテッドのプレス形態は前からハメ込むのではなく、後方をマンツーマンにしてハメ込む形であるため、ポジションチェンジにより陣形が乱れやすいということがあります。エメリ監督は2トップをワイドに出し、2列目のラムジー、ブエンディアをナロー絞らせることでCBを引っ張り出そうとしました。ユナイテッド側がこの作戦にまんまとハマったのは、エメリ監督がどのようなシステムを使ってくるのか事前にわからなかったことも影響したはず。今回が初陣となるエメリ監督がどのようなフォーメーションでくるのかは始まってみないとわかりませんでした。メンバーだけ見れば4-3-3もしくは4-2-3-1だと予想しましたが、どちらも違って4-2-2-2でした。ユナイテッドのプレス構造が後ろをマンマークするということに合わせて、ヴィラのフォーメーションを把握するまではよりマンマークを強めた印象を受けます。そのことが、ゾーンディフェンスの意識を薄れさせ、リンデロフのカバーが遅れる要因となりました。エメリ監督はもちろん「ネットワークを分断してやろう」と考えたわけではありませんが、CBを引っ張り出しギャップを作るという狙いは、ユナイテッドのネットワークを切断することとイコールです。

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ちなみに後半開始早々の失点も守備ネットワークの弱さと分裂がその背後にあります。このシーンもリンデロフが釣り出されますが、カゼミーロが戻って加勢し、マルティネスとショーもアイコンタクトでベイリーとブエンディアをケアしており守備陣のネットワークは繋がっています。しかし、戻ってきたエリクセンはブエンディアを見ていますが、味方が十分いるボックス内へ入ってきてしまい、ラムジーに目が行っていません。これはヴィラ戦だけでなく多くの試合で見られるエリクセンのプレーで、守備陣とのネットワーク接続の希薄さ(弱さ)が出てしまう場面です。もともと3列目の選手ではないエリクセンなので仕方ないところも大きいのですが、さらに悪いことに前線の選手は誰も戻って来ず、この守備ネットワークと繋がろうとしませんでした。文字通り、最終ラインと前線が分断されており、中盤にぽっかりスペースができていることが確認できます。そこをラムジーは突いた形となりましたが、こういうシーンで戻ってきてくれるのがブルーノです。ブルーノならば全力で戻って守備ネットワークと繋がるプレーをしたと思います。

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③攻撃面でのネットワーク

さらにこのネットワーク切断は攻撃面でも見られています。ヴィラ戦の攻撃はお世辞にも機能したと言えませんが、特にロナウド、ファン・デ・ベーク、ラッシュフォードの3人のパフォーマンスに批判が集中しました。良くなかったのは間違いないのですが、攻撃時のユナイテッドはそもそもネットワーク接続が貧弱です。テン・ハーグ監督は試合後に繋がらないクロスを上げまくった攻撃を「愚か」と評しましたが、こうなってしまったのは攻撃陣のネットワーク構築ができていない為だと言えます。特にロナウドとファン・デ・ベークは共にソシエダ戦もプレーしましたが、オフ・ザ・ボールの動きが重なっており、全くリンクできていませんでした。にも関わらず、ヴィラも先発させたのはある意味テン・ハーグ監督の失策です。怪我人が多く選択の余地がなかったこともありますが、ロナウドかファン・デ・ベークどちらかはベンチスタートにすべきでした。

今シーズンロナウドのパフォーマンスが上がらないのは年齢的なものもあるかもしれませんが、シーズンオフの退団騒動、プレシーズンツアー不参加、スパーズ戦の途中退席などでチームメイトとのネットワーク構築ができていない為です。そういう意味では、ヴィラ戦にテン・ハーグ監督がロナウドをキャプテンとしたのは理解できます。ブルーノがいない状況で、キャプテンとしてロナウドが存在感を見せれば、一気にネットワークが構築できる可能性があったためです。が、結果的にこれはうまくいきませんでした。それどころか、イライラからミングスとやり合う羽目に...。そしてネットワーク論からすれば最も苦戦しているのがファン・デ・ベークでしょう。ユナイテッド在籍3シーズン目ですが、未だにチームメイトとのネットワーク構築が進んでいません。アヤックス時代のファン・デ・ベークのプレーを見れば、ネットワークがいかに重要な選手かわかるでしょう。ここまでくるともはやユナイテッドというチームがファンデベークに合っていないという結論しかなくなってしまいます。ソシエダ戦もヴィラ戦もチャンスをもらいながら、それを活かそうという気概もあまり感じませんでしたが、周囲の選手もファン・デ・ベークを使おうとする姿勢はほとんどなかった印象です。

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ユナイテッドの中で攻守において、最もネットワーク構築ができているのがブルーノです。ブルーノはパスで前線の選手と直接的に繋がる事も得意ですが、頻度の高いポジションチェンジや守備時のプレスバック、上がった選手のカバーなどオフ・ザ・ボールのネットワーク構築も非常に巧みです。パーソナル的にもチームキャプテンであるだけでなく、誰に対してもフランクな態度で接する事ができ、またポルトガル語圏選手と英語圏選手の橋渡し役としても重要な存在です。ブルーノはいわゆる「ハブ」としてチームの中心であり、Wifiルーターのような存在だと言えます。ヴィラ戦のチームパフォーマンスにブルーノ不在が与えた影響は、ネットワークの観点から見ても大きいと思います。まぁルータがなければWifiを拾えないのは当たり前なのですが、誰かがブルーノの代わりをする必要がありました。エリクセンはユナイテッドにおけるもう1つのルータですが、ヴィラ戦では強い電波を発する事ができなかったことも影響しましたね。

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👿まとめ

3-1で敗れたヴィラ戦後のインタビューでテン・ハーグ監督は「試合開始時に相手を走らせ、適切な組織を作れず、特に守備ではプレー原則を守れずに戦いに敗れてしまった。」と述べ、大敗を喫したシティ戦と同様に「プレー原則」に関して言及しています。プレー原則の重要性をことあるごとに語るテン・ハーグ監督ですが、私はプレー原則はネットワークを接続状態に保つ「手段」だと考えています。もしくはネットワークが切断された時に再度繋がるためのツールと言っても良いかもしれません。つまり、プレー原則が守られている間は選手同士が適切に繋がり、想定した機能を発揮できるということ。ここ最近のユナイテッドの堅守は、プレー原則が守られていたため守備のネットワークが途切れることがほとんどなかったことが要因です。ヴィラ戦はこのネットワークがエメリの戦術により分断され、各選手のリンクが弱くなった試合だったということです。

一般的に守備陣の方がネットワークの繋がりの強さは重要であるために、プレー原則も徹底されているはずだと考えられますが、攻撃陣はある程度の自由を与えられていることが想像できます。しかしながら、貧打にあえぐ前線もプレー原則をしっかり設けてネットワークを構築する時が来たように感じます。ロナウドやファン・デ・ベークの不発はたまたまでも、コンディションのせいでもなくネットワークができていない為に起こっています。個人で上手く構築できないのならば、戦術的に落とし込み繋がりやすくするしかないでしょう。どんなに個人能力の高い選手でも、ネットワーク構築ができない選手はその能力を発揮し、活躍する事は難しくなります

今回は、敗戦を「ネットワーク論(ネットワーク科学)」を中心にして考察してみました。上手く表現できていないところもありますが、なんとなく伝わったでしょうか?試合の振り返りの時に、個のパフォーマンスに注目するやり方も全然かまわないのですが、選手同士の結びつきに注目してみるとまた違った現象が見えてくるかもしれません。ネットワーク論は、さらにここからポジションやフォーメーション 、タスクや能力などに展開可能です。それはまたの機会にトライしてみたいと思います。

この試合の結果ユナイテッドは5位のままですが、4位スパーズとは3ポイント差となっています。

22-23PL-15 ヴィラvsユナイテッド スタッツ
22-23PL-15 試合結果

次の試合はEFLカップ3回戦 オールド・トラッフォードでのアストン・ヴィラ戦。11月11日(金)5:00キックオフ。カモン!ユナイテッド!!

最後まで読んで頂きありがとうございました!

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