【23-24夏の移籍情報】アンドレ・オナナ スカウティング・レポート【プレーメイカーGK】

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こんにちはMasaユナイテッドです。

7月7日、23-24シーズンのユナイテッドが始動しました。ユナイテッドの選手たちははキャリントンに戻りチームトレーニングを開始。12日に開催されるプレシーズン初戦リーズ・ユナイテッド戦に向けて調整を行います。移籍市場真っ只中ということで去就の不確定な選手も多くいますが、新シーズンのタイトル獲得へ向けて、今からハードなトレーニングをこなすことになるでしょう。5日に獲得を発表したメイソン・マウントの姿もありますが、ユナイテッドはまだ新戦力を1名獲得しただけであり、これから補強ポイントとなるゴールキーパーとストライカー獲得に臨むことになります。なお、マウントに関してはこちらの記事を参照下さい。

その中で、7月8日現在獲得交渉を行っているのがゴールキーパーのアンドレ・オナナに関してです。報道によると、オナナ自身とは個人面で合意に達しており、現在は所属先であるインテルと移籍金に関して交渉が大詰め段階と言われています。オナナに関してはアヤックスでテン・ハーグ監督の下プレーし、インテルでは22-23シーズンのCL決勝のパフォーマンスが印象的だったのでご存じの方が多いと思いますが、今回は改めてオナナのスカウティング・レポートを作成したいと思います!

以下項目です。

①プロフィール

選手名:アンドレ・オナナ(André Onana)
生年月日:1996年4月2日(27歳)
国籍:カメルーン
身長:190cm
ポジション:GK
チームキャリア:サミュエル・エトー・アカデミー(2006~2010)→バルセロナ(2010~2015)→アヤックス(2015~2021/22)→インテル(2022/23~)
利き足:右
契約終了年:2027年6月30日
市場価値:35m€(TransferMarktのデータより)

1996年4月2日、カメルーン中部ンコル・ンゴク村(フランス語圏)で生まれたアンドレ・オナナ。4人兄弟と共に、勤勉な両親の下で育ったオナナですが、小さい頃からゴールキーパーに興味を示していたそうです。11歳の時に、サミュエル・エトーの設立した育成クラブのスカウトに発見され入団。そこでゴールキーパーの基礎技術を学びました。同世代でカメルーン最高と言われるほどの評価を得ていたオナナにバルセロナが興味を示し、2010年13歳の時に単身スペインへ渡り、カンテラ(ラ・マシア)に加入します。しかし、その年齢での海外挑戦は難しく、言語の問題もありバルセロナでは大成することができませんでした。にも拘わらず、真摯にサッカーと向き合っていたオナナにオランダから声が掛かります。

2015年1月、15-16シーズンからのアヤックス移籍合意が発表されますが、急遽前倒しとなり2月からの加入となります。14-15、15-16シーズンをリザーブリーグでプレーしたオナナは、2016年8月20日のヴィレムⅡ戦でトップチームデビュー。全32試合に出場し20失点15のクリーンシートを記録します。また、2016年5月にカメルーン代表に初招集。9月のガボン戦で代表デビューを飾りました。続く17-18シーズンはリーグ戦33試合32失点12CSを記録。18-19シーズンはリーグ戦33試合に出場しリーグ制覇に貢献しました。また、チャンピオンズリーグでも準決勝に進出。トッテナムに惜しくも敗れましたがファン・デ・ベークやフレンキー・デ・ヨングらとともにヤング・アヤックス躍進の象徴的存在となりました。19-20シーズンはコロナウィルスの影響でリーグ戦は途中中断となり、続く20-21シーズンの途中にはオナナは禁止薬物であるフロセミドの陽性反応を示し、UEFAから12ヶ月の出場停止処分を受けました。オナナは妻の薬を誤って服用したと述べ、アヤックスもこの決定に対して抗議活動に加わり、6月にスポーツ仲裁裁判所によって出場停止処分は9か月に短縮されました。21-22シーズン途中には復帰したオナナでしたが、代わりを務めたレムコ・パスフィールがチームを支え、オナナは怪我もあり6試合の出場に留まりました。

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そして2022年7月、7年半を過ごしたアヤックスに別れを告げインテル・ミラノへフリートランスファーで加入することが発表されました。初挑戦のセリエAでは24試合に出場し24失点8つのCSを達成し、リーグ戦3位、コパ・イタリア優勝に貢献。またCLではバルセロナ、バイエルンと同居したグループステージを見事に突破。ポルト、ベンフィカ、ミランを破ってシティとの決勝に進出しました。決勝では惜しくも敗れはしましたが、オナナは素晴らしいパフォーマンスを披露し、世界に衝撃を与えました。また、代表に関しては2022年ワールドカップカタール大会のカメルーン代表メンバーに選ばれますが、スイスとの初戦を戦った後、2戦目のセルビア戦では途中降板となります。最終的にリゴベルト・ソング監督と戦術に関して衝突し懲戒処分を受け、11月28日に大会から帰国させられました。オナナは2022年12月23日に代表からの引退を発表しています。

②スカウティング・レポート

「彼らのハイプレスでのプレー方法を考えると、オナナはビルドアップのポジションを取るのに優れたゴールキーパーだ。本当に、本当に素晴らしい。彼らは本当に良いプロセスを持っている、オナナはビルドアップにおける並外れたGKである– 現在世界最高の選手の一人だ。」

これは22-23シーズンのチャンピオンズ・リーグ決勝戦の後で、ペップ・グアルディオラが語ったオナナに関するコメントです。さらにペップはオナナを「ホールディング・ミッドフィールダー」に例えてその足元の技術を称賛しました。現在ゴールキーパーの獲得リストのトップにあり、ユナイテッドに「最適」と言われるアンドレ・オナナ。彼のプレースタイルを紐解いていきましょう。

2-1.セービング

まずはセービングに関して見ていきます。オナナの22-23シーズンのセリエAでのセーブ率は73.5%となっており、これはセリエAで8位の成績となっています。ちなみにデ・ヘアは71.1%でプレミア10位でしたが、オナナの数字をプレミアに当てはめると6位に位置することになります。さらに失点期待値PSxGは19.3となっていますが実失点は24となっており(全24試合、内2つはPKでの失点)、期待値を上回る数字となっています。これだけ見ると、セービングに関して「文句なし!」と言える数字ではないのですが、一方でチャンピオンズリーグのスタッツを調べると失点期待値17.6に対して実失点11となっており(全13試合)、期待値よりも少ない失点数で、セービングに関して素晴らしい活躍だったことがわかります。また、アヤックス時代のセーブ率を見ても73%から80%の間で推移しており、トップクラスのキーパーとして問題ない数字であることも分かります。

実際のプレーを見ても、集中力が欠如するようなシーンはほとんど見られず、常に相手のシュートに対して準備ができています。また、特筆すべきはその身体能力でしょう。シュートに対する反応や跳躍に関しては素晴らしいものがあります。ゴールの左右下隅へのシュートにもしっかり体を倒して反応し、上部へのシュートにも腕を伸ばして弾くことができています。このあたりはトップチームの正ゴールキーパーなら特別驚くものではないかもしれませんが、ゴールマウスに立つ存在感とがっしりとした体格は相手に心理的な圧迫感を与えるのではないかと推察できます。

2-2.ポジショニング・飛び出し

オナナのウィークポイントと言われるのがポジショニングと飛び出しです。非常にリスクのある高い位置を取り、バックライン裏へ侵入する相手に対して積極的な飛び出しを見せるのがオナナの特徴ですが、判断を誤りゴールをがら空きにしてしまうシーンがあります。18-19シーズンのアヤックスでは37回のスイープ(ゴールエリアを飛び出しての守備)を記録し、翌19-20シーズンは41回、20-21シーズンも37回を記録しています。1試合換算すると1.7、1.8回ほどとなっておりシティのエデルソンを上回る数字です。もちろんスイープの回数が多くても、的確にボールを処理できれば問題ないわけですが、アヤックス時代にはミスも見られたようです。

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しかしながら、この特徴もディフェンスラインの深いインテルに行ってからは10回と激減しています。インテルではそもそもゴールエリアを出てディフェンスする機会がほとんどなかったということです。つまりは、チーム戦術によるバックラインの高さにより、オナナのポジショニングも当然ですが変化するということです。とは言え、ゴール前に張り付いたままのデ・ヘアを見慣れているユナイテッドサポーターからすれば、オナナの積極的な飛び出しは慣れるのに時間が掛かるかもしれません(笑)。下のヒートマップは22-23シーズンのオナナのボールタッチエリアを示していますが、ハーフウェイライン手前の1%がオナナの勇気をよく表していると言えるでしょう。

22-23 オナナのボールタッチエリア 引用元:Opta Analyst

2-3.パス・ビルドアップ能力

オナナの最大の特徴でありストロングポイントとなるのがボールの扱い、パス、そして配球、ビルドアップへの貢献です。これは22-23シーズンのCL決勝、シティ戦を見た方には説明不要でしょう。サイドバックへの展開のパス、中盤への楔のパス、ロングフィードででのチャンスメイクと多彩なパスでシティのハイプレスを無効化。相手を吊り出し前線でスペースを作り、疑似カウンターを仕掛けるインテルの戦術においてキーマンとなる働きを行いました。シティ戦のオナナはチーム3番目となる49本のパスを出し37本成功させています。繋がらなかったのはロングパスがほとんどでショートパス成功率は100%、ミドルパスは91.7%を記録しています。プレッシャーが掛かった状態でも慌てることなく的確な判断でプレス回避のパスを出せる能力は特筆に値します。というよりも、わざと相手を引き付け、味方のポジショニングを助けている面もあると思います。

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セリエAでの試合でもオナナは完全なスイーパーキーパーとして振る舞っており、ビルドアップの場面では積極的にエリアから出てボールを運び、全体のポジションを押し上げます。CBの方がオナナより低い位置にいることもしばしばあり、もはやキーパーの枠に留まらずフィールドプレーヤーとして、そしてプレーメイカーのようにボールを扱います。オナナは22-23シーズン、自陣でのパス精度が93.8%となっており、ヨーロッパのトップ5リーグで12人のGK(最低出場時間1,000分)だけがこれを上回ります。さらにそのうちの3人だけが90分あたりの自陣でのパス本数(28.8本)でオナナを上回っています。また左右両足で精度の高いキックができるのもオナナの特徴。ハイプレスを掛ける相手はオナナの利き足である右足を封じるようにプレスを掛けますが、そうすればオナナはあっさり左足でパスを出しプレス回避します。ピッチの中央を通す楔のパスもオナナの真骨頂。そのパス出しのタイミングとコース、スピードはもはや芸術的ですらあります。もちろん、有能なポストプレーヤーがいることも重要ですが、視線やボールの持ち方でどこにパスを出すのか非常にわかりにくいという特徴を上手く活用しています。1本の縦パスで局面を変えることができるオナナのパスは、チームの大きな武器となっていると言えるでしょう。

2-4.メンタリティ・総括

最後はメンタリティ。オナナを見ていて思うのはその自信の大きさです。ボールの扱いに対する自信の大きさはもちろんのこと、クロスへの対応やスペースを埋めるための飛び出しなど、決断を迷っている印象はほとんどありません。また、先述したようにプレッシャーを掛けられても意に介さないメンタルの強さも併せ持っています。22-23シーズン加入したインテルでは、ハンダノヴィッチというベテランゴールキーパーがいながら加入を決断し、実力で守護神の座を奪って見せました。そしてアヤックス時代も含め、チャンピオンズ・リーグでの豊富な経験と、大舞台でも実力を発揮したきたという事実もパーソナリティの強さを物語っています。集中力の欠如はアヤックス時代に指摘されていたようですが、27歳になったオナナはその面も改善されたように思います。また、コーチングに関しても的確で、ディフェンスラインに安心感を与えているのもオナナの長所でしょう。

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このように、キーパーにとって最も重要であると言っても過言ではないメンタル面の強さは申し分なく、アヤックス時代も優れたキーパーでしたがビッグクラブであるインテルに加入して一回り成長し、より完成されたキーパーとなった印象を受けます。足元の技術、配球、ビルドアップの貢献、プレス回避など現代型のキーパーとしてヨーロッパでも屈指の存在でしょう。

③ユナイテッドでの役割

契約延長間近と報じられていたデ・ヘアですが、その後クラブ側が態度を一変させ、6月30日をもってデ・ヘアはユナイテッドを去る事になりました(7月8日に正式に退団を発表)。この件に関しては賛否あると思いますが、やはり補強に関してキーパーの重要度が上がった可能性が高いでしょう。昨シーズン中、ずっとテン・ハーグ監督はデ・ヘアを擁護してきましたが、チームをより進化させるには守護神を変える必要があるという結論に達したはずです。デ・ヘアがテン・ハーグ監督の求めるスタイルに当てはまらないのは明らかでしたが、CL決勝での両チームが見せたキーパーの戦術的重要度の高さやオナナの活躍により、獲得競争が激化する前に動いた可能性もあります。ペップシティがエデルソンを、クロップがアリソンをチームに加えることで、チーム戦術を1段階押し上げたように、テン・ハーグ監督にも戦術的なキーとなるキーパーが必要です。

22-23 オナナvsデヘア

オナナはご存じのようにアヤックスでテン・ハーグ監督の下でプレーしてきました。そのポゼッション、ビルドアップ戦術は熟知しており、自身の能力が最も活かせるプレースタイルであることもよくわかっているでしょう。オナナがユナイテッド加入となれば、不安定だった後方からの繋ぎや、ハイプレスに対する脆弱性を大幅に改善する可能性が高いです。それは安定したポゼッションや、効果的なボール前進に繋がり、より試合を支配できるようになることを意味します。昨シーズンのユナイテッドはトランジッション・フットボールを展開しましたが、オナナの加入によりよりポゼッション志向が強まると予想されます。しかしインテルが見せたように、バックラインを下げるような戦い方はしないと思うので、ポゼッションとトランジッションのバランスをうまく取る必要がありそうです。オナナのプレースタイルはチームへのフィットに問題ないと思いますが、少し不安があるとすればプレミアのフィジカルとスピードに素早くフィットできるかどうかでしょう。でもこれもシティとの決勝戦を見れば問題ないかとは思いますし、アヤックスで共闘したマルティネスとアントニーの存在も大きな助けとなるでしょう。

オナナ獲得交渉は大詰めを迎えています。ユナイテッドは5000万ユーロを提示しましたがインテルは6000万ユーロを求めているようです。落としどころは恐らく5500万ユーロ。数日内に決着を付け、12日から始まるプレシーズンツアーには間に合わないかもしれませんが、19日から始まるUSツアーまでにはオナナをスカッドに加えたいところです。

最後まで読んで頂きありがとうございました!

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